読書の日記

書き手のくせにあまり読書家ではない私ですが、分野を問わず、読んだ本について感想を綴っていきます。

サラリーマンの悲哀を感じる-『白い叛乱』高杉良

著者は、化学業界の専門誌の記者時代に小説を書き始め、小説家として一本立ちしています。

『金融腐蝕列島』をはじめ、映画化された作品もあり、今や企業小説という範疇を超えて、経済小説の大家と評価すべき作家です。

この作品は、彼が自ら肝炎で入院した経験を踏まえ、作家として2作目に書かれたものです。

 

白い叛乱―製薬プロパーたち (集英社文庫)

白い叛乱―製薬プロパーたち (集英社文庫)

 

 製薬会社の若い営業社員が完治の見込みのない肝炎にかかり、休業を余儀なくされます。

入院中の彼の目を通して、製薬業界と病院の癒着の構造、医師と営業社員の理不尽な関係が巧みに描かれていることが、企業小説家として面目躍如たるものがあります。

冒頭、開業医をスナックで接待する営業社員が、酔った院長に入れ歯を漬けたお酒を飲むように強要されるシーンはかなりショッキングです。

著者は、緻密に取材をすることで有名で、この箇所は決して創作ではないんでしょうね。

時代背景は今から30年も前ですが、企業とサラリーマンの関係は、基本的には変わっていないのではないでしょうか。

就職ではなく就社は今も昔も同じですし、「ブラック企業」や「追い出し部屋」が表立っていなかっただけだと思います。

小説では、将来有望な若い社員も、会社にとって役に立たなくなったときは切り捨てられる、という理不尽さが読み手の心をつかみます。

主人公が、仕事ができてもどこか頼りなげな好青年であるだけにそうなんですね。

経済学では、人間・組織の行動原理は、「効用の最大化」が基準だと説明しています。

会社は利益を出して、出資者である株主に配当するのが第一の存在意義です。

個々の社員は単なる手足に過ぎない。

こう考えると、とてもわかりやすいと思います。

しかし、組織と異なり、個々の社員には感情もあれば家族もいます。

サラリーマンは会社と自分の関係をどう考えるべきか、考えさせられる作品です。

最後に主人公が、入院中、厳しいながらも親身に看護してくれた看護師に恋愛感情を告白し、受け入れられるシーンには救われました。